新たな戦略の変遷(KOシステムの登場までの流れ)
「ディーラーをやっつけろ!」が出版されて以来、さまざまな専門家がソープ教授の考案した手法をさらに発展させ、新しいシステムを複数考えてきた。
これはまさに「ディーラーをやっつけろ!」が公開されたその瞬間から始まった。
ちょうどコンピューター時代の幕開けとも重なり、システムを開発する人にとっては素晴らしい味方となった。
ここでは、様々な戦略の名称と概要を説明していますが、細かく見る必要はなく、「そういうのがあったんだ〜」ぐらいで参考程度にしていただければと思います。
後でも紹介するように、現代のカードカウンティングシステムの基本的な考え方は、それぞれのカードに数値を割り当てることである。
その数値は、あるカードが残りのデッキから抜かれたとき、それが期待値にどう影響するかを示すものである。
+やーは、カードが抜かれたことによりその期待値が上がったか(+)、もしくは下がったか(-)を意味する。
『ディーラーをやっつけろ!』の初版で、ソープ教授はブラックジャックに勝つための、いくつかのシステムを紹介している。
その中に、シンプルで人気のある「Ten Count」が含まれている。
さらに史上初となるポイントカウント式のシステムも紹介している。
その名を「Ultimate Count」と言うが、残念ながら、マルチパラメーターを持つアルティメット(最強の)テクニックを使いこなすには、3つのカウントを同時に覚える必要があった。
しかも3つのカウントのうちひとつは、1枚のカードによってその数値が+11や-9といった大幅な上下変動をすることもあった。
ここまで大規模なシステムになると、大抵のプレイヤーの手には負えなかったのが現実であった。
クロード・シャノンは、カードカウンティングの単純化を初めて試みた人物の1人である。
シャノンは1961年に、よりシンプルなカウント値を提案した。
これが後に「High-Low」と呼ばれるシステムである。
ソープ教授もシャノンもHigh-Low数値の有効性を認識し、1963年にはハーヴィー・ダブナーがこれを導入し、一般に流行させた。
High-Lowカウントは、1を加減算するカウント (レベル1とも呼ばれる)である。
具体的に言えば、全てのカードが+1、0、-1のいずれかの数値を割り当てられる。
ジュリアン・ブラウンがこの概念を借り、コンピューターでカウント値を分析して、それに伴う正しいベット戦略と正しいプレイ戦略を計算した。
この簡易カードカウンティングシステムは1966年にソープ教授の第2版『ディーラーをやっつけろ!」に掲載された。
数年後、『Playing Blackjack as a Business』※1では、ローレンス・リビアがHigh-Lowを紹介しながら、トゥルーカウント換算(true-countconversion) と言われる計算の修正方法を併用する、High-Lowに近いカウンティングシステムも紹介している。※2
※1. Lawrence Revere「Playing Blackjack as a Business」
※2. Stanford Wong『Professional Blackjack] 1994, Pi Yee-Pressに一例が掲載されている。
今日においても、High-Lowは大変人気が高く、成功を収めているシステムだと言える。
スタンフォード・ウォング博士の好評のシリーズ本に、このシステムの全容が集約されている。
1968年にチャールズ・アインシュタイン※が、ある程度異なったカウント値をカードに割り当てるという提案をする。
※. Charles Einstein (How to Win at Blackjack 1968, Cornerstone Library.
その大きな違いはAの扱いにある。
ゲームのルール上、Aは11としても1としても使えるという特徴を持っている。
ベットの際(カードが出る前)には、Aはハイカード (11)として、プレイヤーにとって価値が高いカードとして扱われる。
しかし、ハンドをどう進めるかという岐路に立つときには、Aは大抵ローカード(1)として扱われることになるのである。
このカメレオンのようなAは、昔からカウンティングシステムの開発者やカードカウンターの頭痛の種となっている。
この特徴に対処すべく、アインシュタインはAを0としてカウントすることを提案した。
Aに、ほかのハイカード(10、J、Q、K)と同じ値を割り当てるダプナーとは違い、アインシュタインはAに中立な値を割り当て、10のカードの数を3、4、5、6の4種類で相殺する。
そしてAの数をもうひとつの別のカウントで把握し、小さいカードの割合によって基本戦略の応用も勧めた。
アインシュタインの概念は後にジュリアン・ブラウン、匿名のMr.G、Dr. ランス・ハンブル、およびDr. カール・クーパーの4人によって「洗練と展開」が行われ、最終的にHi-Opt Iシステムに改正された。
ハンブルとクーパーの「The World's Greatest Blackjack Book」には、Hi-Opt Iが非常に読みやすい形で取り上げられている。
1979年にはピーター・グリフィンが、「The Theory of Blackjack』※の初版を出版し、ブラックジャックのさまざまな側面について数学的な分析を発表している。
※. Peter A. Griffin (The Theory of Blackjack] 1998, Huntington Press
その画期的な書籍は、何度もその改訂版が出版され、ブラックジャックの最も優秀な参考書として使われてきた。
多くの野心的なブラックジャック研究生もグリフィンの結果を活用し、カジノブラックジャックに勝つための奇抜なテクニックを誕生させている。
1980年代にカードカウンティング界の動向は、まず、プレイヤーのアドバンテージを限界まで実現するためのより複雑なシステムへと移行していった。
ケン・ユーストンはいくつかのシステムについて執筆しているが、その中でも高い人気を誇るUston Advanced Point Count (Uston APC)※というシステムがある。
※. Ken Uston『Million Dollar Blackjack/1981, Gambling Timesを参照。このカウントはピーター・グリフィンによって考案されたもので、Griffin3と名付けられた。
しかし、残念なことに、Uston APCはコンピューターシミュレーションでは優れた成績を残していたものの、レベル3のカウント値は非常に覚えにくく、実践には向かなかった。
ユーストンはのちにこれを反省し、よりシンプルなUston Advanced Plus-Minus※を提案することになる。
※. Ken Uston『Uston on Blackjack]1986. Barricade Booksを参照。
「より複雑へ」という傾向に反抗して、ジョン・グィン・ジュニア教授とジェフリー・ツァイは「Multiparameter Systems for Blackjack Strategy Variation」という論文で、トゥルーカウント換算によるわずかなミスとそのミスによる影響が、どのようにカウンティングシステムの性能に作用するかを検証した。
のちに、アーノルド・スナイダーがこの概念をHigh-Low Liteでさらに展開させ、最近、補足作品である「A Study of Index Rounding」※で、この議論にある程度の終止符が打たれた。
※.10th Intermational Conference on Gambling and Risk Takingの国際会議で、ケン・フクスとオラフ・ヴァンクラにより発表された。「Finding the Edge 1998, UNIR Pressの記事を参照。
さらなるシンプル化を求めて、1980年代の前半にアーノルド・スナイダーが革新的な「Blackbelt in Blackjack」※を執筆する。
※. Arnold Snyder?Blackbelt in Blackjack 1997. RGE Publishing
ここでRed 7と呼ばれるブラジャックの歴史上、初めてとなるアンバランスカウントシステムが登場する。
Red7システムはシンプルさという面で、非常に画期的であった。
Red7は準レベル1システムで、全てのカードは+1、0、-1のどれかの値を割り当てられる。
システムがアンバランスであることから、トゥルーカウントへの換算を全く必要とせず、掛け算や割り算の暗算も必要ない。
Red7の唯一の(小さな)弱点は、他のシステムと違って、7のカードの色に関する作業を必要とすることだった。
プレイヤーは、カードカウンティングから得られる情報をもとに、ベット金額の上げ下げを決めるだけでなく、ハンドの基本戦略も調整することになる。
スナイダーはこの基本戦略の応用について大幅な単純化を勧めた。
彼が推奨するシンプル化された戦略は、いくつかの応用戦略プレイを覚えるだけでその機能を発揮する。
Red7は、プロとしてのプレイに適するまでに発展してはいなかったが、このシンプルなシステムでさえブラックジャックで勝利するには十分な威力を持っていた。
K-Oシステムもスナイダーが考案した、いくつかの原理を前提としている。
1986年にはドナルド・シュレジンジャー※が、カードカウンティングにおけるそれぞれの応用戦略の相対的な効果を初めて徹底的に分析した。
※. 『Blackjack Forum」の1986年の9月号に掲載された Donald Schlesingerの「Attacking the Shoe」を参照。
それまで、システム開発者は100個以上の応用戦略プレイを示していたが、全て暗記しなければならなかった。
シュレジンジャーは、その多くの応用戦略からIllustrious18(優れた18)という最も効果的な18個を選抜し、その18個を使うだけで実現可能な期待値の約80%を得られることを示した。
比較的最近の話だが、プライス・カールソン※がOmega IIというシステムを発表した(Omega IIIは、それより先に発表されたリチャード・カンフィールドの別のカウントシステムに類似しているが、実はそれぞれ独自に開発されたものである)。
※. Bryce Carlson[Blackjack for Blood 1994, CompuStar Press.
このレベル2システムは強力なパフォーマンスを発揮し、期待値を最大限に伸ばしたい野心的な若者に好まれているようだ。
ただ、Omega IIを使いこなすためには、レベル2カウントを管理する必要があるうえに、Aだけのためのサイドカウントや、トゥルーカウント換算も同時にやらなければいけない。
これでは、カジュアルプレイヤーには手の届かない領域になってしまいたしかに理論上は、どんなに複雑でも、プレイヤーの期待値が最も高いシステムは最も強力なシステムとなる。
しかし実践的には、理論上期待値が高いシステムは、必然的により複雑となり、人間のミスが出やすくなる。
悪循環にさえなり得る。
パフォーマンスを上げるために新システムが開発されても、それが複雑になりすぎれば、プレイヤー自身がそのパフォーマンスを発揮できなくなり、期待値を上げるという本来の目的を見失ってしまう。
この矛盾の突破口はあるだろうか?
まず、期待値に関して言えば、人気の高いカウンティングシステム同士の間にある期待値の差は、一般人がどのカジノを選ぶかによって生じる期待値の差と比べれば、いたって小さいものだということが重要である。
つまり、どのカウンティングシステムを選んだとしても、全体的な期待値は、どのシステムを選択するかよりも、どんな条件や環境でプレイするかに影響されるのである(後で再びこの話題に触れる)。
これは、カジュアルプレイヤーに昔からほとんど例外なく当てはまる事実である。
しかも、最近ではプロフェッショナルプレイヤーでさえ(いつも最高の条件や環境でしかプレイしない者を除いて)、その方針を変えてきている。
彼らは、よりシンプルで(それによってミスを起こりにくくする)、かつ複雑なシステムに近いパフォーマンスを期待できるシステムを好むようになってきている。
プロフェッショナルプレイヤーであっても、シンプルなシステムを使うことによってその疲労が減り(人によってブラックジャックは仕事なのだ)、より長い勤務時間を確保することで、より高い収入が期待できるのだ。
これで、カードカウンティングシステムの発展サイクルを、完全に一周してきたとも言える。
今日、最も人気のあるカウンティングシステムの数々は、実は初期のカウンティングシステムをアレンジしたものである。
これらのシステムは35年をかけてさまざまな改良や単純化が行われてきたが、それでもまだ多くの人々にとっては手の届かない代物だと言えよう。
ベルが鳴り、ディーラーに話しかけられ、カクテルウエートレスはウィンクを飛ばし、ピットボスには見つめられ、天井カメラにも監視され、客はガヤガヤとうるさく、金が飛ぶように動く、といった状況の中で、カウンティングシステムの複雑な作業をこなせるはずがない。
では、カードカウンティングの可能性はもう全て出尽くしてしまったのだろうか?
ブラックジャックという金の卵を産む鳥は、疲れ果ててもう卵を産まないのだろうか?
幸運にも、その答えはノーである。
私たち一般人は、もう乗り遅れてしまったのだろうか?
これも答えはノーである。
必要は発明の母と言うが、K-O法はシンプルさの必要性に応じて開発された。
いままで開発された中でも、K-Oシステムはプロ級のカウンティングシステムでありながら、最も使いやすいシステムだと自負している。
未経験者を含め、誰でも強いカードプレイヤーになることができ、真剣なプレイヤーからすれば、カードカウンティングがまるで楽しい遊びのように感じるかもしれない。
そして何よりも、そのシンプルさはパフォーマンスを犠牲にしていない。
K-Oシステムは読者がすぐにでも扱える、高性能な武器である。
では、ラウンド2のベルを鳴らそうではないか。
演算機能の飛躍的な進歩
歴史における演算機能の進歩も興味深い話である。
ボールドウィンチームは、当時の計算機を用いて念入りに基本戦略の計算をし、全てを終えるのになんと12マンイヤー (12人年)をかけた。
ソープ教授は研究のため最先端のIBM 704メインフレームを利用した。
そしてFORTRANプログラムを使うことによって、10,000マンイヤー(1万人年)分の演算の処理を可能にした。
ひとつの概算を終えるのに、およそ10分間かかったという。
現在では演算のパワーとスピードは何倍にもなり、同程度の複雑な演算をたった数秒で処理してしまうのだ。
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