基本戦略（ベーシックストラテジー）の誕生

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1953年に、4人の陸軍数学者がブラックジャックの研究を始めたのだ。

そして、ボールドウイン、カンティー、マイゼル、およびマクダーモットは3年間の努力を捧げた計算結果(無論パソコンの時代はまだ到来していない)を、史上初のブラックジャック基本戦略として出版したのである。

この「Journal of the American Statistical Association」に掲載された「The Optimum Strategy in Blackjack」の中で、ボールドウィンらはoptimum sturategy(最適戦略)という考え方を紹介している。

現在はこれを「basic strategy(基本戦略)」と呼ぶ。

彼らが推奨した戦略は、当時のブラックジャックの「常識」とはかけ離れたものだった。

論文の中で4人は「最適戦略は、カードの専門家が著する戦略本やカジノで見られる一般的なプレイと大きく異なる」と指摘している。

ボールドウィンチームは正確な基本戦略を公開するだけでなく、ほかにも重大な発見をした。

まずは、正しい戦略を駆使することを前提とすれば、カジノゲームの中で最も期待値の高いゲームはブラックジャックであること。

ボールドウィンチームが当初算出した期待値は-0.6%だった(プレイヤーが賭けた全ベット金額の0.6%がなくなる見通し)が、後にこれをたったの- 0.3%に訂正した(彼らが実際に分析したシングルデッキゲームの期待値は実はほぼ0.0%だった)。

ボールドウィンらが考えた基本戦略が登場するまで、公開されている最も適切な戦略でも、その期待値は-3.6%という厳しいものであった(カルバートソン、その他による戦略)。

そして、もうひとつ重要な発見は、カードはプレイヤーにとって有利なものと不利なものに分類できるということだ。

つまり、プレイヤーの1ハンドごとの勝率は、ディーラーのアップカードに左右されるということだ。

これについて彼らは「プレイヤーの条件付き期待値は、ディーラーのアップカードによってかなりの振り幅を見せる」と要約している。

この重要な概念については、もう少し後で詳しく触れよう。

ボールドウィンチームの研究発表に近いタイミングで、他のプレイヤーもブラックジャックに関する研究を始めることになる。 ※

※.より詳しい説明のひとつはAllan Wilson『The Casino Garnbler's Guide/1965 Harper &Rowに掲載されている。

1956年にリチャード・エプステインが作成した「選択マトリクス」は、ヒット、スタンド、スプリット、およびダブルダウンの4つの選択肢について、それぞれの期待値の差異を%で示した。

エプステインはこれに、最初に配られる2枚の分布を組み合わせて、基本戦略の期待値を-0.14%と推測した。

1959年には、ロバート・レアが基本戦略の計算をするプログラムを作成した。

その期待値に関して彼のプログラムが算出した結果はより正確なものとなり、-0.01%という値を示した。

今日の経験豊富なプレイヤーからすれば、数十年前のブラックジャックプレイヤーが使っていた戦略はおかしく感じるだろう。

ここに、ボールドウィンチームが1950年代のプレイの常識について行った調査の結果を少しだけ紹介しよう。

ヒットとスタンドに関して
「ほとんどの熟練プレイヤーはどんな場合でも 13のスタンドを勧めず、一般的に 12のスタンドなどまず問題外とされている」

スプリットに関して
「カジノで8のスプリットを見ることはほとんどなく、その半面 10と絵札のスプリットは珍しくない」

ダブルダウンに関して
「どの著者もダブルダウンを勧めない。カジノでダブルダウンは珍しいものだし、ほとんどのプレイヤーはソフトトータル(A5など)でダブルダウンするという発想自体がない。恐らくブラックジャック戦略の中で最も無視され、最も過小評価されているのはダブルダウンだと言えよう」

人によって程度は異なるが、彼らのような懸命な研究家たちが、1人ずつブラックジャックの秘密を解き始めていた。

彼らは、基本戦略を使用することで、ブラックジャックをほぼトントンのゲームにすることができると気づいたのだ。

さらに、プラスaの情報を足せばこのゲームに勝てるのではないか、という発想にまでたどり着いた者もいた。

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